破天荒フェニックスとは、メガネのオンデーズの社長である田中修治さんのアダ名である。
本書を読めばわかるが、この社長――かなり破天荒だ。
登場人物のひとりである奥野さんが「破天荒」「破天荒」と何回も言っている。
やることが突然で、しかも決めたことであれば反対意見には反対する理由がなくなるまで説明をしてそれを通してしまう。
周りの人間からすれば大変だろうけど、ポジティブに破天荒なのが田中社長だ。
本書を読めばわかるが、この社長――まるで不死鳥のようだ。
不死鳥=フェニックスというアダ名がつけられる田中社長のオンデーズ再生物語の構成は、以下のような流れが中心となっている。
田中さんがオンデーズの社長になる。
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経営の状況は相当酷く、改善をしても改善をしてもキャッシュが不足する。
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資金ショートの危機!
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経営陣や営業のがんばりでギリギリ回避する。
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また資金ショートの危機!!
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身売りも視野に入ったが救世主に救われる。
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またまた資金ショートの危機!!!
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支援者が現れるも、土壇場で逃げられたり約束を反故にされる。
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身売りも考えるが、またもや救世主に救われる。
資金ショートの危機には田中さんの破天荒から始まるものもあるが、土壇場のピンチでもうどうしようもない絶体絶命のところからでも不死鳥の如くギリギリ生き返るのはハラハラの連続で、読んでいても心臓に悪い。
臨場感はそんなにないが、絶望感はかなり伝わってくる文章なので、田中社長や奥野さんの気持ちとシンクロすると結構来るものがある。
特に奥野さんとシンクロしたら、胃に穴が空いちゃうんじゃないかってほど酷い(^_^;)
田中社長を信用しているからこそできる芸当であり、そうじゃなかったら倒れているか逃げ出してしまってもおかしくないくらい、オンデーズのピンチは相当酷く、相当深く、相当長い。
物語が後半に進むと、オンデーズの脱安売りのセルフブランド化と海外進出の話になってくる。
ここまで進む頃にはオンデーズ自体は販売がそこまで低迷していないので、大きなコストがかかる分、資金繰りが苦しくなってくるという展開になり、結果打開策を次々と打ち出す中でブルーオーシャンの海外進出を果たすことになる。
結果として、海外進出以降はオンデーズの快進撃が始まり、黒字倒産の危機こそあれど銀行との取引適正化に向けての奮闘が中心となる。
ピンチこそあれど、序盤の1円の調整に苦しむ資金繰りに比べると規模が大きくなった分、焦燥感は伝わりづらくなっている。
オンデーズは業界3位であっても1位のジェームズに差を拡げられるばかりで、順調になってもまったく安心できず、勝負に出ては資金が厳しくなって最大加速ができない状況が続いていたのがとてももどかしかった。
決算書がゾンビ状態であっても業績は好調、それでも銀行は数字しか見ず新規の融資をしてくれず、オンデーズがどんなチャンスに恵まれてもそれをうまく乗りこなせずに、黒字倒産の危機が何度も訪れてしまうのは「銀行ってなんで融通が利かないんだ!」とヤキモキしてしまった。
エンジェル投資家のような存在が藤田光学の藤田社長くらいであり、この人がいなかったらオンデーズは田中社長の手を離れていただろう。
ただ、藤田社長との出会いも、田中社長が自ら動いたことがきっかけで起きた運命のひとつなので、悩んで何も行動しないよりは、何かひとつでもいいから動くことで事態が好転することもあると、いう奇跡の展開もあるということだ。
破天荒フェニックスは、田中社長の成長物語だ。
最初にあった甘い考えから、3.11の東日本大震災での出来事を越え、真剣にメガネの専門家になることでオンデーズを成功へと導くまでとなった。
田中社長の企画力、行動力、真摯な姿が周りの人たちをどんどんと味方につけることで、人の力がどんなに大きいものなのかというのが印象的だった。
人が大事だという考えのもと、どんなピンチでも社員の待遇を守ることはブラック企業が横行する現代では信じられないくらいのホワイト対応だ。
社員ががんばることでオンデーズの売上は成立している。
社員に本気を出してもらうために、社長や幹部ががんばる。
破天荒ではあるものの、その行動力でいくつかの奇跡を味方につけ、不死鳥の如くオンデーズを再生に導くハラハラ・ドキドキの物語は、サクセスストーリーというには胃にダメージがあるが、とてもおもしろくあっという間に読み終えてしまった。
会社を買収したときの内部のドロドロっとした感じとかもあるので、田中社長や奥野さんに感情をあまりシンクロしすぎないように読むほうがいい、と要らぬアドバイスをしたくなるくらい、人の裏切りやピンチの描写がとてもうまい物語でした。
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