『ヒースブログ』の管理人のヒースです。
個人的に大当たりが多く潜んでいると思っている、宝島社の『このミステリーがすごい!』大賞――略して『このミス』大賞の隠し玉。
その『隠し玉』作品に、スタートダッシュで開幕から心を掴んで一気に読ませる傑作が誕生した。
それが『犬の張り子をもつ怪物』だ。
※『このミス』大賞・隠し玉とは?
……大賞の受賞には及ばなかったものの、編集部が将来性を感じて刊行した作品のこと。
読者を選ぶ可能性があるものの、尖った部分が刺さる人にはとことん刺さる大きな癖を持つ作品などで、アイディアやトリック、展開や語り口などが独特なものも多い。
作者の藍沢今日氏は、本書の解説によると、最終候補に数多くの作品を残すもあと一歩及ばずという戦歴の持ち主とのこと。
我流の限界から小説講座でさらにスキルに磨きをかけ、満を持して受賞したのが本作だ。
投稿時の作品に対し、編集との改稿作業を重ねることで大幅なクオリティアップを果たし、もはや『大賞』レベルにまで引き上げられた状態で刊行された本作は、不可視の犬張り子を用いたアリアによる大量虐殺を法廷で裁くことを目的に話が進んでいく。
見えない物的証拠を証明することができるか――
見えない犬張り子を見ることができる刑事・夏木を中心にアリアの正体を突き止める序盤。
中盤はアリアを無罪へと導こうとする、汚い手を使うことも辞さない弁護士・国仲とアリアを絶対に起訴することを目指す検事・武智との攻防。
アリアの過去と現在のつながり、過去に行われて犬張り子を用いた殺人と同じような事件の洗い直し、アリアが自分が死刑になることに意味があると語る本当の狙いが明かされていく終盤。
視点が細かく切り替わり、捜査や調査のさなかに見えてくる真実の端々。
なぜ、アリアは大量虐殺をおこなったのか?
犬張り子の存在を証明し、超能力での殺人を立証することができるのか?
開幕から物語の結末まで一気に読ませる力量は相当なもので、時間を忘れて読み込んでしまう。
作中に明確に散らされた伏線は、物語のラストに向けて読者をグイグイと引き込んでいく、予想通りの展開があってもなおある種の爽快感を得られる。
作品の丁寧な流れにより、アリアの復讐がうまくいくことすらも期待してしまう部分がある。
期待はクライマックスへと確実に我々を導き、見事に作者による結末へと転がされていく。
読後の余韻は不気味さを残し、この世界の続きが果たしてどのようなものを迎えるのかを知りたくもあり、知ることの怖さを予感させることさえある。
これがデビュー作。
10年の積み重ねと最終選考を多数生み出したアイディアや筆力。そこに編集によるクオリティアップが加わった作者の今後の作品は、どのようなものであれたのしみだ。
これも解説によるが、作者の主戦場はホラーという。
ホラーとミステリーが混ざるサスペンスが、我々読者に対し『怖いもの見たさ』の欲望を生ませることは想像に難くない。
『犬張り子をもつ怪物』
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